日本発で海外からの支持も熱いブランドの代表格、Sacai(サカイ)。
設立から20年以上が経ち、感度の高いファッショニスタのみならず、マスにも浸透した印象があります。長く続けながらも1つのスタイルに固執せず、でもトレンドに振り回されることもない。それでいて確立されたSacaiらしさのようなものをどのシーズンのコレクションでも醸し出す事のできる、稀有なブランドです。
今回はそんなSacaiの特徴を、ブランドの代表作やデザイナーの経歴などを踏まえながら紐解いていきます。
Sacaiの概略
ブランドスタートから現在まで
Sacaiのスタートは1999年。
コムデギャルソンでニットパタンナーなどを経験したデザイナー、阿部千登勢がたった5型のニットコレクションからスタートしました。当初は阿部氏自身のごく身近なスタイリストや編集者、セレクトショップ関係者などのみに向けて発表していましたが、業界人の間で徐々に評価を高めていきます。
2006年には、名門モード雑誌VOGUEの元編集長が立ち上げたミラノのセレクトショップ、10 CORSO COMO(ディエチ コルソコモ)で、カプセルコレクション「サカイジェム」、ランジェリー・ホームウェアコレクション「サカイラック」を発表。2009年にメンズラインを加え、2011年に満を持してパリコレクションに参加します。以来、国内外で高い評価を受け、今や数多い日本発のパリコレ参加ブランドの中でも、別格の存在感を放っています。
ブランド名の由来と、デザイナー・阿部千登勢の経歴
デザイナー、阿部千登勢の旧姓は酒井(さかい)で、Sacai(サカイ)のブランド名は、彼女の旧姓から付けられました。阿部氏は、アパレル大手の株式会社ワールドから、ファッション業界でのキャリアを踏み出します。その後の1989年、バブルに湧き立つ世相の中でコムデギャルソンに入社。1981年に”黒の衝撃”で世界のファッションシーンを席巻したギャルソンは、阿部氏にとってまさに憧れの舞台でした。
ジュンヤワタナベチームへの抜擢で、現在のクリエイションに繋がる下地が作られる
憧れのギャルソンへ入社を果たした阿部千登勢は、渡辺淳也が統括する、ジュンヤワタナベコムデギャルソンの立ち上げメンバーに選ばれます。ここで、トレンドに左右されずに一から新しいものを作り上げる経験をしたことが、現在に至るまでの阿部氏のクリエイションを形作ったと言っても良いでしょう。Sacaiのシグネチャーともいえるドッキングや切り替えを多用するデザインは、ジュンヤワタナベと通底する雰囲気があります。
ブランドのテイスト
モードとカジュアルの折衷
Sacaiに限らず、現代のブランドを一つのカテゴリーに括るのは難しいことです。
ですが一つ言えるのは、Sacaiには、モード界の絶対的な存在であるコムデギャルソンの血が流れているということ。モードという言葉の一つの定義である、常に新しい価値観を提示し続けるブランドであることに間違いはありません。
一方で、モードの代表格であるコムデギャルソンがメインラインではリリースしにくいような、日常生活の中で着ていて違和感のないアイテムをリリースし続ける点は、Sacaiのカジュアル性と親しみやすさを認識させます。
Sacaiが業界人だけでなく、一般のファッショニスタにも知れ渡り出した頃、ブランド側で「日常の上に成り立つデザイン」というコンセプトを定義しましたが、Sacaiの洋服は、コレクションブランドらしい個性を持ちながらも、コンセプト通り日常生活にしっかりと馴染むデザインです。
コムデギャルソンのメインラインはモード性が強く、主張が宿るあまり、着る人の職業やメンタリティーによっては日常使いするハードルが高いでしょう。
かつて、”黒の衝撃”でモードに新しい価値観をもたらしたコムデギャルソンと同様、Sacaiもモードとカジュアルの垣根を取り払う新しい価値を示しました。
アイテム、コレクションの特徴
特徴的なディティール『ドッキング』
Sacaiを語る上で欠かせないのが、『ドッキング』です。
特にデニムジャケットとMA-1をドッキングしたジャケットは、定番として毎シーズンリリースされています。

また、シャツとコーチジャケットの裾のドローコードを合わせたようなシャツも、Sacaiを代表するアイテムです。

影響を受けたブランド『JUNYA WATANABE』
JUNYA WATANABEには、前述の通りSacaiのデザイナー、阿部千登勢自身が立ち上げから関わっていました。それもあって、ドッキングや異素材使いなどのディテールワークから色濃い影響を読み取ることができます。
影響を与えたブランド『Tamme』
Tammeのデザイナー、玉田達也は、何を隠そうSacaiでパタンナーを経験しています。Tammeの、ナイロン素材のアイテムを多く展開する点や、複雑なジッパー使いによるデザインの目新しさは、Sacaiからの影響が一目瞭然です。

コラボでも熱狂を生むSacai
NIKE
NIKEとのコラボでバズるブランドはいくつもありますが、SacaiとNIKEコラボの人気は特筆もの。
ナイロンパーカーやスニーカーは、一時期東京中のファッショニスタの必須アイテムのようになりました。
THE NORTH FACE
THE NORTH FACEのコラボは、特に女性の指示が高かったように思います。
ノースのアウトドア志向で機能性の高いブランドイメージと、Sacaiが持つモード性とファッション性が、女性が取り入れやすいアーバンアウトドアを実現したのでしょうか。お洒落な女性ファッション業界人が、こぞって着ていた印象です。
Carhatt
2023SSのファッションニュースで最も盛り上がったトピックの一つが、Sacaiとカーハートのコラボでした。
古着でも人気のラフなアメカジのイメージが強いカーハートとのコラボは意外な組み合わせでしたが、コレクションを見ると、驚くほど洗練されたワーク、ストリートスタイルが表現されています。
これぞ、大人が着るべきストリートウェアではないでしょうか。
Sacaiの支持者(支持層や年代)
30代前後〜40代のモード志向の女性やクリエイター達
統計があるわけではありませんが、30前後〜40代ぐらいの、ミドル世代前後の女性支持者が多い印象です。
ある程度服装の自由が効きつつ、高クオリティのアウトプットが求められる職業の女性達が根強く支持している印象があります。
また、ファッションメディアを通じて、編集やスタイリストなどのアパレル業界人をはじめ、クリエイティブな要素のある仕事に就く人々から、Sacaiを評価する声が多く聞かれます。
日本のファッションブランドが好きな外国人
Sacaiは、日本発という点ではドメスティックブランドとも言えますが、そのグローバルな展開や人気を踏まえると、もはやドメスティックと括るのは実態と合わないブランドです。実際、2011年のパリコレ進出前後から海外の売上が国内の売上額を上回っていました。
2014年には売上高100億円を突破しますが、国内の人気だけでは到底100億円を売り上げることは難しかったでしょう。世界でSacaiを取り扱う店舗数は、2014年の時点で250以上ありました。このことからも、Sacaiが海外で熱い支持を得ているブランドだということは自明です。
最後に、Sacaiを支持する各界の著名人を紹介して記事を締めくくります
藤原ヒロシ
ストリートファッションのゴッド、藤原ヒロシはSacaiのビジネスパートナーであり愛用者でもあります。
藤原氏の主宰するフラグメントとSacaiがNIKEと製作したLD Waffleは、爆発的な人気アイテムとなりました。
ファレル・ウィリアムス
説明不要のミュージシャン、プロデューサーのファレル・ウィリアムスもSacai愛用者の一人です。
ドクター・ウー
タトゥーアーティストのドクター・ウーとは、コラボアイテムもリリースしました。
ウーは、タトゥーの世界において現在最も影響力のあるカリスマ。アメリカでは、タトゥーに興味を持つ人なら知らない人がいないほどの存在です。